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慢性心不全の治療

慢性心不全の治療

慢性心不全の治療においては、患者さんの自己管理が重要な役割を果たし、自己管理能力を向上させることで、予後改善が期待できるとされています。しかし、外来患者さんにおける毎日の体重測定や塩分制限の遵守率は約50%との報告もあり、医療者は患者さんの自己管理が適切に行われているかを評価し、患者さんおよびご家族に対する教育や相談支援によって、患者さんの自己管理能力の向上に努めることが重要といわれています。

労作時の息切れおよび易疲労感の増強や、安静時呼吸困難、下腿浮腫の出現のみならず、食思不振や悪心、腹部膨満感、体重増加などが心不全増悪の症候であることを患者さん、ご家族、介護者に十分理解していただくことが大切です。

心不全の治療は「予後を改善する治療」と「症状を良くする治療」にわかれ、使用する薬剤もそれぞれ異なります。

予後改善薬

心不全では血行動態を維持するための代償機構として、神経体液性因子が過刺激の状態に陥ります。症状が安定したように見えてもこの反応は継続し、結果として心筋障害を助長し心不全がさらに増悪します。

この循環を断つのがアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やβ遮断薬です。予後改善をもたらす作用があり、ACE阻害薬には血管拡張作用を通じてうっ血を軽減する効果もあります。
アンジオテンシン II 受容体拮抗薬(ARB)はACE阻害薬と同等の効果があります。ACE阻害薬には時として空咳の副作用があるため、そうした際にはARBが代用されます。

症状改善薬

症状改善薬として主に用いられているのが利尿薬です。ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、アルドスレロン拮抗薬、バソプレシンV2受容体拮抗薬の4つがあり、実臨床ではそれぞれの特徴によって使い分けられています。

ループ利尿薬は、急性・慢性心不全ともにもっとも頻用される利尿薬といえます。
利尿に対して即効性があり、左室拡張末期圧を低下させることで、肺うっ血に基づく労作時呼吸困難や浮腫などの心不全の症状を軽減します。

サイアザイド系利尿薬にはループ利尿薬ほどの強い利尿効果はなく、軽症例で用いられることが多いといえます。また、ループ利尿薬で十分な効果が得られない場合、併用されることもあります。

しかし、これらの利尿薬は低カリウム血症や低マグネシウム血症を来しやすく、これらの予防のためにアルドスレロン拮抗薬が併用されています。アルドスレロン拮抗薬の利尿効果は、ゆっくり(2〜3日)と効き強くありません。

慢性腎不全の重症例ではバソプレシンの分泌が亢進することと、利尿薬が頻用されることなどから、低ナトリウム血症が問題となります。この問題を是正する水利尿薬としてバソプレシンV2受容体拮抗薬が開発されています。

ジギタリスについて

ジギタリスは心不治療、特に心房細動合併例の第一選択薬として歴史的に評価されてきた経緯があります。実臨床においてはジギタリス製剤の中でもジゴキシンが主として使用されています。
ジゴキシンは①心筋の収縮力を高める強心薬としての作用、②神経体液性因子の異常の改善作用、③房室伝導の抑制作用があります。

心不全治療薬を投与していても心不全症状の改善が十分でない場合に、ジゴキシン投与が開始されることが多く、慢性心不全治療ガイドラインには、「ステージC(症候性心不全)の患者に対して、低用量ジゴキシンの使用を考慮する」と記載されています。

高血圧を合併している場合の治療

高血圧は心不全の基礎疾患としてもっとも頻度が高い疾患であり、降圧治療によって高血圧患者における心不全発症率が減少するともいわれています。

高血圧治療ガイドラインでは、心血管病を有する高血圧患者には生活習慣の是正と降圧薬治療を速やかに開始することを推奨しています。
薬剤選択は、降圧をはかりながら心不全の治療を行うことが原則となります。多くの大規模臨床試験で、ACE阻害薬、およびARBとβ遮断薬は心不全患者の長期予後を改善することが明らかにされていますので、心不全を合併する高血圧には、これらの薬剤の単独あるいは併用が良い適応とされています。

降圧効果が不十分な症例や臓器うっ血を伴う心不全では、利尿薬の使用により十分な降圧が認められる場合、心不全発症を有意に抑制する、との報告もあります。より降圧が必要な場合は、アルドステロン拮抗薬であるスピロノラクトンやエプレレノンの使用が推奨されています。
また、長時間作用型のジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は、心不全患者の予後を増悪させないことが明らかになっており、安全に使用できると考えられています。

高血圧を合併した心不全患者さんの降圧目標値は症例によって異なりますが、130/80mmHg未満とする報告が多いようです。

必要に応じて追加検討する治療

心房細動に伴う心不全には、肺静脈隔離術であるカテーテルアブレーションが有効といわれています。カレーテルアブレーションは、心房細動によって失われた心拍数のコントロールと、心房と心室の同期不全を解消することで、心機能を改善させると考えられています。

β遮断薬を主として薬物療法を実施しても、収縮能が低下した心不全症例では心室内の伝導が遅延し、幅の広いQRS波形を呈することがあります。このような波形を伴う低心機能の症例には、心臓再同期療法(CRT)が有効とされています。
β遮断薬やACE阻害薬などの薬物療法で、改善しないような重症心不全において適応が検討されます。

急性心不全の治療

急性心不全の治療においては、急性心筋梗塞と同様に迅速な病態把握が重要となります。
早期に病態を把握し、迅速な対応をすることがその予後にも影響してくるといわれています。
まず、急性心不全は診断をしっかり行うことが大切です。欧州心臓病学会の心不全ガイドラインには診断基準として以下の内容が記載されています。

[心不全の診断]

左室駆出率が低下している心不全診断
・心不全の典型的な症状※1
・心不全の典型的な兆候※2
・左室駆出率が低下

左室駆出率が保持されている心不全診断
・心不全の典型的な症状※1
・心不全の典型的な兆候※2
・左室駆出率が正常/軽度低下
・原因となる構造的心疾患(左室肥大、左房拡大)かつ/または拡張能障害

※1:息切れ、起座呼吸、発作性夜間呼吸困難、運動耐容能低下、倦怠感・疲労・運動後回復低下、下腿浮腫
※2:頸静脈怒張、肝頸静脈逆流、III 音(ギャロップ)、外側心尖拍動、心雑音

この内容をみても心不全の診断では、症状および身体所見の把握がきわめて重要であることがわかります。また、その後の治療効果の判定においても重要な情報となります。

診断がついた場合、あるいは心不全が強く疑われるような場合であれば、心不全の病態である肺水腫、体液貯留、低灌流のうち、どれが主であるかを判断します。

急性発症、または増悪症例に対しては、主病態がどのようなものかをしっかりと把握して、それぞれの病態に応じた対応を迅速にとることが大切といわれています。

血管拡張薬

急性心不全の治療には不穏や呼吸困難を軽減する鎮静剤や、肺うっ血や浮腫などを軽減する利尿薬などが用いられますが、血管拡張薬は必要不可欠な薬剤です。
利尿薬と血管拡張薬は急性心原性肺水腫に有効と考えられており、一般的には血管拡張薬が第一選択となっていますが、慢性心不全の急性増悪のようにうっ血が著明の場合には利尿薬主体の治療となります。一方、血圧高値、心筋虚血を合併例、僧帽弁逆流症がある場合などは、血管拡張薬が望ましいとされています。

血管拡張薬には、硝酸薬やカルペリチドがあります。
硝酸薬にはニトログリセリン、硝酸イソソルビドがあり、これらは急性心不全のみならず狭心症の治療薬として広く使用されています。
作用としては、血管内に取り込まれた硝酸薬が一酸化窒素に変換され、血管拡張作用を発現させると考えられています。
カルペリチドは、人工合成されたヒト心房性ナトリウム利尿ペプチドであり、利尿作用と血管拡張作用があります。またレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の抑制作用が報告されています。

点滴強心薬

強心作用を有する薬剤は、血圧低下、末梢循環不全、循環血液量の補正に抵抗する症例にも使用されています。強心薬は短期的には血行動態や臨床所見の改善に有効と考えられていますが、病態に応じた適応、薬剤の選択、投与量、投与期間に十分注意を払うべきとされています。一般的には左室拡大と収縮障害を有する患者さんに対して用いられます。
強心薬にはカテコラミン強心薬(ドブタミン、ドパミン)、ジギタリスなどがあります。