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甲状腺疾患診断 ガイドライン活用ガイド

診断の基礎知識

臨床症状から甲状腺疾患が疑われた場合、甲状腺機能検査(血液検査)、画像検査(超音波(エコー)検査)、病理検査(細胞診)などの検査を実施します。

甲状腺の機能を調べる「血液検査」では、甲状腺ホルモン異常の有無を測定します。
画像検査として最初に行われる「超音波検査」では、甲状腺の大きさや形、炎症の程度や腫瘍の有無を調べます。 採取した細胞の検査を行う「細胞診」は、超音波検査で癌が疑われた場合、腫瘤病変に対して良悪性の診断を行います。

細胞診は外来で簡便に行える安全性の高い検査であり、通常、穿刺吸引細胞診を施行することによって確定診断を得ることができますが、中には細胞診のみでは確定診断がつきにくい場合があります。そのようなケースでの最終的な診断は、手術で腫瘍全体を摘出した後、病理組織検査で診断します。

甲状腺疾患診断ガイドライン

日本甲状腺学会は、日常診療でよく遭遇する5つの疾患(バセドウ病、甲状腺機能低下症、無痛性甲状腺炎、橋本病、亜急性甲状腺炎)の診断基準について、「甲状腺疾患診断ガイドライン」として学会ホームページ上に公示しています。

バセドウ病の診断ガイドライン2013

a)臨床所見
1. 頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加等の甲状腺中毒症所見
2. びまん性甲状腺腫大
3. 眼球突出または特有の眼症状

b)検査所見
1. 遊離T4、遊離T3のいずれか一方または両方高値
2. TSH低値(0.1μU/ml以下)
3. 抗TSH受容体抗体(TRAb, TBII)陽性、または刺激抗体(TSAb)陽性
4. 放射性ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率高値、シンチグラフィでびまん性

1)バセドウ病
a)の1つ以上に加えて、b)の4つを有するもの

2)確からしいバセドウ病
a)の1つ以上に加えて、b)の1、2、3を有するもの

3)バセドウ病の疑い
a)の1つ以上に加えて、b)の1と2を有し、遊離T4、遊離T3高値が3ヶ月以上続くもの

【付記】

1. コレステロール低値、アルカリフォスターゼ高値を示すことが多い。
2. 遊離T4正常で遊離T3のみが高値の場合が稀にある。
3. 眼症状がありTRAbまたはTSAb陽性であるが、遊離T4およびTSHが正常の例はeuthyroid Graves' diseaseまたはeuthyroid ophthalmopathyといわれる。
4. 高齢者の場合、臨床症状が乏しく、甲状腺腫が明らかでないことが多いので注意をする。
5. 小児では学力低下、身長促進、落ち着きの無さ等を認める。
6. 遊離T3(pg/ml)/遊離T4(ng/dl)比は無痛性甲状腺炎の除外に参考となる。
7. 甲状腺血流測定・尿中ヨウ素の測定が無痛性甲状腺炎との鑑別に有用である
日本甲状腺学会ウェブサイト(外部サイト)より引用]

甲状腺機能低下症の診断ガイドライン2013

原発性甲状腺機能低下症
a)臨床所見

無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声等いずれかの症状

b)検査所見
遊離T4低値およびTSH高値

原発性甲状腺機能低下症
a)およびb)を有するもの

【付記】

1. 慢性甲状腺炎(橋本病)が原因の場合、抗マイクロゾーム(またはTPO)抗体または抗サイログロブリン抗体陽性となる。
2. 阻害型抗TSH受容体抗体により本症が発生することがある。
3. コレステロール高値、クレアチンフォスフォキナーゼ高値を示すことが多い。
4. 出産後やヨード摂取過多などの場合は一過性甲状腺機能低下症の可能性が高い。

中枢性甲状腺機能低下症
a)臨床所見

無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、 便秘、嗄声等いずれかの症状

b)検査所見
遊離T4低値でTSHが低値〜正常

中枢性甲状腺機能低下症
a)およびb)を有するもの

除外規定
甲状腺中毒症の回復期、重症疾患合併例、TSHを低下させる薬剤の服用例を除く。

【付記】

1. 視床下部性甲状腺機能低下症の一部ではTSH値が10μU/ml位まで逆に高値を示すことがある。
2. 中枢性甲状腺機能低下症の診断では下垂体ホルモン分泌刺激試験が必要なので、専門医への紹介が望ましい。
日本甲状腺学会ウェブサイト(外部サイト)より引用]

無痛性甲状腺炎の診断ガイドライン2013

a)臨床所見
1. 甲状腺痛を伴わない甲状腺中毒症
2. 甲状腺中毒症の自然改善(通常3ヶ月以内)

b)検査所見
1. 遊離T4高値
2. TSH低値(0.1μU/ml以下)
3. 抗TSH受容体抗体陰性
4. 放射性ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率低値

1)無痛性甲状腺炎
a)およびb)の全てを有するもの

2)無痛性甲状腺炎の疑い
a)の全てとb)の1〜3を有するもの

 

除外規定
甲状腺ホルモンの過剰摂取例を除く。

【付記】

1. 慢性甲状腺炎(橋本病)や寛解バセドウ病の経過中発症するものである。
2. 出産後数ヶ月でしばしば発症する。
3. 甲状腺中毒症状は軽度の場合が多い。
4. 病初期の甲状腺中毒症が見逃され、その後一過性の甲状腺機能低下症で気付かれることがある。
5. 抗TSH受容体抗体陽性例が稀にある。
日本甲状腺学会ウェブサイト(外部サイト)より引用]

慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドライン2013

a)臨床所見
1. びまん性甲状腺腫大
 但しバセドウ病など他の原因が認められないもの

b)検査所見
1. 抗甲状腺マイクロゾーム(またはTPO)抗体陽性
2. 抗サイログロブリン抗体陽性
3. 細胞診でリンパ球浸潤を認める

1)慢性甲状腺炎(橋本病)
a)およびb)の1つ以上を有するもの

【付記】

1. 他の原因が認められない原発性甲状腺機能低下症は慢性甲状腺炎(橋本病)の疑いとする。
2. 甲状腺機能異常も甲状腺腫大も認めないが抗マイクロゾーム抗体およびまたは抗サイログロブリン抗体陽性の場合は慢性甲状腺炎(橋本病)の疑いとする。
3. 自己抗体陽性の甲状腺腫瘍は慢性甲状腺炎(橋本病)の疑いと腫瘍の合併と考える。
4. 甲状腺超音波検査で内部エコー低下や不均一を認めるものは慢性甲状腺炎(橋本病)の可能性が強い。
日本甲状腺学会ウェブサイト(外部サイト)より引用]

亜急性甲状腺炎(急性期)の診断ガイドライン2013

a)臨床所見
有痛性甲状腺腫

b)検査所見
1. CRPまたは赤沈高値
2. 遊離T4高値、TSH低値(0.1μU/ml以下)
3. 甲状腺超音波検査で疼痛部に一致した低エコー域

1)亜急性甲状腺炎
a)およびb)の全てを有するもの

2)亜急性甲状腺炎の疑い
a)とb)の1および2

除外規定
橋本病の急性増悪、嚢胞への出血、急性化膿性甲状腺炎、未分化癌

【付記】

1. 上気道感染症状の前駆症状をしばしば伴い、高熱をみることも稀でない。
2. 甲状腺の疼痛はしばしば反対側にも移動する。
3. 抗甲状腺自己抗体は高感度法で測定すると未治療時から陽性になることもある。
4. 細胞診で多核巨細胞を認めるが、腫瘍細胞や橋本病に特異的な所見を認めない。
5. 急性期は放射性ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率の低下を認める。
日本甲状腺学会ウェブサイト(外部サイト)より引用]

診断のポイント

触診

甲状腺疾患の触診は、①サイズ(バセドウ病や橋本病では甲状腺が腫大する)②硬さ(バセドウ病や橋本病では硬くなる)③結節の有無-の3つが重要なポイントとなります。
しかし、③の結節には良性と悪性があり、触診での良性・悪性の鑑別の感度については低い傾向にあるため、結節が疑われる場合は超音波(エコー)検査を行います。

甲状腺機能異常を疑うべき症状と所見

甲状腺機能異常が疑わしいと考えられる症状・所見として、甲状腺機能亢進症では多汗、暑がり、手の震え、動悸、倦怠感、食欲亢進、体重減少、筋力低下、頻脈、心房細動などが知られています。一方、甲状腺機能低下症では寒がり、浮腫、皮膚の乾燥、便秘、記憶力減退、体重増加、倦怠感、除脈などがチェックポイントと考えられています。

一般検査値の異常

甲状腺疾患は、一般検査値の異常から見つかることも少なくありません。甲状腺異常の場合、一般検査で、総コレステロール、ALP、LDH、AST、ALT、CPK、ZTT、TTT、赤沈などの検査値が異常になるとされます。
特に血液中のコレステロール値が高値の場合には甲状腺機能低下症、ALP値の上昇をみた場合は甲状腺機能亢進症が疑われます。

甲状腺疾患・甲状腺機能異常のスクリーニング

甲状腺機能を調節しているTSH(甲状腺刺激ホルモン)は、血中量の変動が甲状腺機能を反映するため、甲状腺機能異常のスクリーニングとしてはまずTSHの測定を行います。ただ、TSH値の異常、甲状腺機能異常を思わせる症状・所見がある場合は、FT3(フリーT3)、FT4(フリーT4)も測定します。
また、バセドウ病や橋本病は甲状腺に対する自己抗体ができてしまう自己免疫疾患のため、バセドウ病ではTRAb(抗TSH受容体抗体)、橋本病ではTPOAb(抗ペルオキシダーゼ抗体)、TgAb(抗サイログロブリン抗体)などの自己抗体の測定も必要です。

甲状腺疾患診断のための検査

甲状腺疾患にはたくさんの種類がありますが、大きく分けて甲状腺機能異常に関わる疾患(甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症)と腫瘍性疾患(甲状腺腫瘍)の2種類に分類されます。

甲状腺機能異常に関わる疾患は、甲状腺の働きや異常を調べる甲状腺機能検査と、血中の自己抗体の存在を確認する自己抗体検査によりわかります。

甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症は血中のFT4(フリーT4)FT3(フリーT3)とTSH(甲状腺刺激ホルモン)の測定が有用です。
また、自己抗体検査もバセドウ病や橋本病の診断には有用です。

甲状腺腫瘍は悪性と良性に大別され、検査では良性か悪性かを鑑別することが重要なポイントです。確定診断は通常、腫瘍の有無を確認する超音波(エコー)検査と病変部の細胞を採取する穿刺吸引細胞診検査を行いますが、甲状腺腫瘍は腫瘍径が小さい場合などでは悪性との鑑別が時に困難なことがあり、なかなか確定診断がつかないケースもあります。

検査値の読み方

TSH(甲状腺刺激ホルモン)

TSHは脳下垂体から分泌されるホルモンの一つで、甲状腺に働きかけ、身体の新陳代謝に関係している甲状腺ホルモンの分泌を促進させる作用があります。このため血中のTSH値を測定することにより、甲状腺ホルモンの過不足を知ることができます。

FT3(フリーT3)とFT4(フリーT4)

甲状腺ホルモン(T3、T4)は血液中では大部分がタンパク質と結合していますが、ごく一部はタンパク質と結合していない遊離型ホルモン(FT4、FT3)として流れています。全身で作用するのは遊離型ホルモンのFT4とFT3のため、FT4とFT3の値を測定することで甲状腺ホルモンの過不足を知ることができます。

TRAb(抗TSH受容体抗体)

甲状腺のTSH受容体を刺激する自己抗体です。TSH受容体を刺激し甲状腺ホルモンを過剰に産生させてしまうTRAb は、バセドウ病の原因物質と考えられています。このためバセドウ病の確認には原因物質であるTRAbを測定します。

TPOAb(抗ペルオキシダーゼ抗体)

甲状腺ホルモン合成に作用する甲状腺ペルオキシダーゼという酵素に対する自己抗体で、橋本病やバセドウ病ではこの自己抗体が高値で検出されます。TPOAbは従来より抗マイクロゾーム抗体(MCHA)ともいわれます。

TgAb(抗サイログロブリン抗体)

サイログロブリンは甲状腺ホルモンの合成に必要なタンパク質で、サイログロブリンに対する自己抗体をTgAbといいます。バセドウ病や橋本病などの自己免疫性甲状腺疾患では、TgAb、TPOAbがそれぞれ高頻度に陽性となります。