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甲状腺と婦人科(不妊)

女性と甲状腺疾患

甲状腺疾患は男性に比べて女性に発症する割合の高い疾患の1つで、疾患全体の男女比は男性が50〜100人に1人、女性は30〜60人に1人の割合となっています。年齢は、20〜50歳代(女性)に多く発症します。

女性に甲状腺機能異常が多い理由はまだ十分にはわかっていませんが、バセドウ病や橋本病はそれぞれ甲状腺自己抗体が原因の自己免疫疾患です。そして、一般的に自己免疫疾患は女性に多いことが知られています。

甲状腺機能異常は、甲状腺ホルモンが増加する「甲状腺機能亢進症」と減少する「甲状腺機能低下症」に分類できます。亢進症は20〜30代の若い女性に多く、低下症は40〜50代によくみられます。若い女性の月経不順や40〜50代女性の更年期症状に対して治療を続けていても改善しない場合には、甲状腺機能異常を疑って甲状腺の検査を行う必要があります。

一般的な健康診断などでは甲状腺の検査は検査項目に含まれていませんので、若い方にも定期的に血液検査による甲状腺ホルモン・甲状腺刺激ホルモン(TSH)の確認、自己抗体検査を受けて頂くことが大切です。

甲状腺疾患と月経

甲状腺機能は卵巣機能や女性ホルモンと密接な関係があり、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンの量が減少しても増加し過ぎても月経に影響を及ぼします。甲状腺機能障害による月経異常の発生率については、12%との報告があります。

甲状腺ホルモン量が減少する「甲状腺機能低下症」の場合、過多月経、希発月経、無月経などの月経異常がみられます。検査所見としてはFT4(フリーT4)およびFT3(フリーT3)が低値、TSH(甲状腺刺激ホルモン)は原発性甲状腺機能低下症では上昇、視床下部-下垂体性の甲状腺機能低下症では低下します。月経異常を伴う場合は血中LH、FSH、E2、プロゲステロン値が低値である低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に陥りやすいといわれています。治療は甲状腺ホルモン剤を服用します。

甲状腺ホルモン量が増加する「甲状腺機能亢進症」での月経異常の頻度は12〜58%と報告者により差がありますが、過多月経や排卵性不正周期症などの排卵性月経異常が多いとみられています。また甲状腺機能亢進症患者さんではLH-RHに対するLH、FSH分泌が亢進していますが月経異常を伴うものはその反応性が低く、LH、FSH分泌レベルが低下すると希発月経に至ることが示唆されています。治療は抗甲状腺剤が主体となりますが、甲状腺機能亢進症の月経不順の大部分は甲状腺機能の治療により改善します。

甲状腺疾患と不妊

近年、甲状腺機能異常と不妊症との関係が明らかになってきました。
過去の研究ですが、機能亢進症の5.8%は不妊症を認める、という報告があります。一方機能低下症の場合は、典型的な重症例では無排卵による不妊症が7割、軽症例の不妊症は6.2%となっており、低下症は亢進症に比べて異常が合併しやすいと考えられています。
また、不妊女性におけるTSH(甲状腺刺激ホルモン)値だけが高い潜在性甲状腺機能低下症の出現頻度は平均11.7%で不妊女性の10人に1人はこの病態を合併しているという研究データや、不妊女性における甲状腺自己抗体の出現率では約5人に1人が抗体陽性で健常対照(9.8%)に比し有意に高いとする報告などもあります。

以上のことより、不妊女性には少なくともTSHを測定し、可能な場合はFT4(フリーT4)やTPOAb(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)も測定すべきと考えられています。
「妊娠時における甲状腺疾患管理の国際ガイドライン」では妊娠前の正常女性におけるカットオフ値はTSH2.5μU/mL以下と記載されています。

甲状腺疾患と妊娠

妊娠・出産と甲状腺機能異常の発症には密接な関係があり、甲状腺機能異常は妊婦のみならず胎児や新生児にも種々の影響を及ぼすといわれています。

欧米で行われた研究結果によると、妊娠時の甲状腺機能異常の頻度について、甲状腺ホルモン濃度が明らかに低い顕性甲状腺機能低下症が0.3〜0.5%、甲状腺ホルモン濃度は正常にもかかわらず血中TSH(甲状腺刺激ホルモン)濃度が高い潜在性甲状腺機能低下症が2.0〜3.0%、甲状腺中毒症が0.1〜0.4%で起こると報告されています。

妊娠中に甲状腺機能異常を発症すると妊娠中毒症や流産・早産が起こりやすくなるといわれており、妊娠前・妊娠時に甲状腺機能検査を実施することがとても重要になります。甲状腺機能検査は、血液検査で簡単に測定することができます。

甲状腺機能のスクリーニングとしては、まずTSHを測定すべきと考えられています。また甲状腺ホルモンの多寡については、妊娠中は甲状腺ホルモン輸送タンパク質であるTBG(サイロキシン結合グロブリン)の増加に伴いT3(総トリヨードサイロニン)、T4(総サイロキシン)が高値となるため、妊娠により影響を受けないFT3(フリーT3)、FT4(フリーT4)を測定し評価します。

出産後の甲状腺疾患

出産後は一般妊婦の5%という高い頻度で甲状腺の機能異常が認められますが、これは潜在性自己免疫性甲状腺炎が出産後に増悪することにより甲状腺機能異常を惹起すると考えられています。出産後の甲状腺機能異常は、甲状腺機能異常の種類および持続期間により5つのタイプに大別されています。

出産後の甲状腺機能異常は、甲状腺機能低下症だけでなく甲状腺中毒症も発症することから、これらすべてをまとめて「出産後自己免疫性甲状腺症候群」または「出産後甲状腺機能異常症」と呼ばれています。従来、産後の体調不良が続く場合には“産後の肥立ちが悪い”といわれていました。また、気力が減退する、うつっぽい、などの症状が出るので“育児ノイローゼ”や“出産後うつ病”と間違えられる場合も多いですが、このような中に本症候群が原因と考えられる症例が含まれていることがあります。

出産後甲状腺機能異常症の検査方法は簡単で、血液検査で測定します。検査項目は、甲状腺ホルモン、TSH(甲状腺刺激ホルモン)、抗甲状腺受容体抗体などです。